「ペインティング」と「ドローイング」の違い!絵具か鉛筆かだけじゃない?

「ペインティング(Painting)」と「ドローイング(Drawing)」の最も大きな違いは、「面(色や絵具)で表現する」か「線(輪郭)で表現する」かという点です。

なぜなら、ペインティングは「Paint(塗る)」を語源とし、絵具などを用いて面を塗りつぶして形を作る手法であるのに対し、ドローイングは「Draw(引く)」を語源とし、鉛筆やペンなどで線を引いて形を作る手法だからです。

この記事を読めば、美術館での鑑賞や画材選び、デジタルイラストの制作過程でどちらの言葉を使うべきかが明確になり、アートの技法や表現の違いをより深く理解して楽しめるようになります。

それでは、まず両者の決定的な違いを一覧表で詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「ペインティング」と「ドローイング」の最も重要な違い

【要点】

最大の違いは「アプローチ」です。ペインティングは「色と面」で対象を構築し、液体状の画材(絵具)を使います。ドローイングは「線と影」で対象を構築し、乾いた画材(鉛筆・木炭)を使います。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目ペインティング(Painting)ドローイング(Drawing)
中心的な行為塗る
(色面で形を作る)
引く
(線で形を作る)
主な画材絵具(油彩、水彩、アクリル)、
インク、ブラシ(筆)
鉛筆、木炭、ペン、パステル、
クレヨン
表現の主役色彩、質感(マチエール)、
ボリューム(量感)
線(ライン)、輪郭、
陰影(トーン)
日本語のイメージ絵画、彩色画素描、デッサン、線画

一番大切なポイントは、「線(ドローイング)」で骨組みを作り、「色(ペインティング)」で肉付けをするという関係性が多いということです。

ただし、現代アートやデジタルイラストではこの境界線が曖昧になることもあります。

なぜ違う?語源(塗ると引く)からイメージを掴む

【要点】

Paintingは古フランス語の「peindre(描く・塗る)」に由来し、顔料を定着させる行為を指します。Drawingは古英語の「dragan(引く・引きずる)」に由来し、道具を引いて跡を残す行為(線を引く)を指します。

なぜこの二つの言葉は、同じ「絵を描く」ことなのに区別されるのでしょうか。

そのルーツである動詞の意味を知ると、動作の違いが見えてきます。

Paintingのルーツ:色を塗る

「Paint」は、ラテン語や古フランス語に由来し、壁やキャンバスに「顔料(色)を塗りつける」という意味を持ちます。

ペンキ(Paint)を塗る動作をイメージしてください。ブラシを使って、広い面を色で埋めていきますよね。

これがペインティングの本質です。

Drawingのルーツ:線を引く

「Draw」は、古英語で「引く(Pull)」や「引きずる(Drag)」を意味しました。

引き出し(Drawer)を開ける動作や、剣を抜く動作と同じです。

紙の上で鉛筆をスーッと「引く」ことで線が生まれます。この「線を引く行為」そのものがドローイングの語源なんですね。

具体的な画材とシーンで使い分けをマスターする

【要点】

油絵や水彩画は「ペインティング」、鉛筆画やペン画は「ドローイング」です。デジタルアートでは、線画を描く工程をドローイング、着色する工程をペインティングと呼び分けることがあります。

言葉の違いは、実際に使う道具やシーンで確認するのが一番ですよね。

美術館や制作現場でどのように使い分けられているか見ていきましょう。

ペインティングと呼ぶもの

筆や刷毛を使い、液体やペースト状の画材で描かれるものです。

  • 油絵(Oil Painting):キャンバスに油絵具を塗り重ねる代表的なペインティング。
  • 水彩画(Watercolor Painting):水で溶いた絵具で描く。
  • 壁画(Mural Painting):壁面に塗料で描く。

「絵画」と言うと、一般的にはこのペインティング(特に額縁に入った完成作品)を指すことが多いです。

ドローイングと呼ぶもの

先が尖った硬い画材を使い、線やハッチング(線の集合)で描かれるものです。

  • 鉛筆画(Pencil Drawing):デッサンやクロッキーなど。
  • ペン画(Pen Drawing):インクとペンで描く線画。
  • 製図(Technical Drawing):建築や機械の図面を引くこと。

ドローイングは、ペインティングの下絵(下書き)として描かれることもあれば、それ自体が独立した作品として扱われることもあります。

【応用編】「スケッチ」や「デッサン」との違いは?

【要点】

「スケッチ」は早描きや写生(大まかな描写)、「デッサン」はフランス語でドローイングとほぼ同義ですが、日本では特に「基礎的な素描訓練」を指す傾向があります。これらはドローイングの一種に含まれます。

似ている言葉との違いも整理しておきましょう。

スケッチ(Sketch)

「略画」「下絵」という意味です。

完成作品を作る前のアイデアメモや、風景を素早く写し取ることを指します。

ペインティングの準備段階として行われることが多いですが、水彩絵具を使った「水彩スケッチ」などもあります。

デッサン(Dessin)

これはフランス語で、英語の「Drawing」に相当します。

しかし、日本では美術教育の文脈で使われることが多く、石膏像や静物を鉛筆や木炭で精密に描く「基礎訓練としての素描」を指すのが一般的です。

「ペインティング」と「ドローイング」の違いを美術学的に解説

【要点】

美術史において、この二つは「色彩(Colorito)」対「素描(Disegno)」の論争として長く議論されてきました。ドローイングは知性や構想(線による定義)を表し、ペインティングは感情や感覚(色による肉付け)を表すとされることもあります。

少し専門的な視点から、この二つの言葉を分析してみましょう。

ルネサンス期のイタリア美術では、フィレンツェ派(ドローイング重視)とヴェネツィア派(ペインティング・色彩重視)の対立がありました。

  • Drawing(線):理性的、男性的、形態の正確さを追求する。事物の本質を捉える「デザイン(Design)」の語源とも関連します。
  • Painting(色):感性的、女性的、雰囲気や感情を表現する。絵具の物質感(マチエール)や光の表現を追求します。

現代アートにおいては、線だけのペインティングや、色面だけのドローイング(パステルなど)も存在するため、区分はより概念的になっています。

美術用語の定義については、美術館の解説や美術大学のシラバスなどでも、技法ごとの分類として扱われています。

参考:武蔵野美術大学 美術用語

僕が美術の授業で「ドローイング」を提出して怒られた体験談

僕が美大受験の予備校に通い始めた頃の、恥ずかしい失敗談をお話しします。

最初の課題で「静物のペインティング(油彩)」が出されました。

僕は張り切ってキャンバスに向かったのですが、形を取るのが楽しくなってしまい、細い筆でひたすら輪郭線を描き込んで、中を薄く塗るだけの作品を作ってしまいました。

講評の時間、先生は僕の作品を見てため息をつきました。

「君、これはペインティングじゃないね。キャンバスに絵具でドローイングをしているだけだ

僕は意味が分からず、「えっ、でも絵具を使っていますよ?」と反論しました。

先生は厳しく言いました。

「君は『線』で形を説明しようとしている。ペインティングというのは、色と色の境界で形が生まれるんだ。線に頼るな、面で捉えろ!」

「道具が絵具でも、思考が『線』ならそれはドローイングだ」

この指摘で、僕は初めて「描く」と「塗る」の思考の違いに気づかされました。

それ以来、ペインティングをする時は「線」を捨てて「色面」で物を見るように意識しています。

「ペインティング」と「ドローイング」に関するよくある質問

Q. パステル画はどっちですか?

A. 境界線上の存在ですが、一般的には「ドローイング」に分類されることが多いです。しかし、画面全体を隙間なく塗りつぶして重厚に仕上げる技法の場合は「パステル・ペインティング」と呼ばれることもあります。

Q. デジタルイラストはどっちですか?

A. 工程によって使い分けられます。ペンタブレットで線画を描く作業は「ドローイング」、その後にバケツツールやブラシで着色する作業は「ペインティング(塗り)」と呼ばれます。完成作品は「デジタルペインティング」と呼ばれることが多いです。

Q. 「ドローイング」には図面の意味もありますか?

A. はい、あります。建築や機械設計の分野では「Drawing」は「図面(製図)」を指します。この場合、芸術的な表現よりも、正確な線で情報を伝えることが目的となります。

「ペインティング」と「ドローイング」の違いのまとめ

「ペインティング」と「ドローイング」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本動作が違う:ペインティングは「塗る(面)」、ドローイングは「引く(線)」。
  2. 画材が違う:絵具や筆などの湿性画材か、鉛筆やペンなどの乾性画材か。
  3. アプローチが違う:色彩と量感で表現するか、輪郭と陰影で表現するか。
  4. 関係性:ドローイングはペインティングの土台(下絵)になることが多い。

一見すると単なる「画材の違い」に見えますが、そこには「世界をどう捉えて表現するか」という深いアプローチの違いがあったんですね。

これからは、美術館で力強い筆跡の油絵を見たら「素晴らしいペインティングだな」、繊細な線の素描を見たら「美しいドローイングだな」と、心の中で使い分けて鑑賞してみてください。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、メディア・文化系外来語の違いまとめの記事もぜひご覧ください。

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