「初任給」と「基本給」の違いは、給与の「総額」を指すか、その中の「ベースとなる部分」を指すかという点にあります。
なぜなら、初任給は新入社員に支払われる最初の給与全体（手当込み）を指すことが多いのに対し、基本給は手当を除いた給与の土台部分だから。
この記事を読めば、求人票の数字のトリックを見抜き、将来のボーナスや退職金にどう影響するかまで具体的に分かります。
それでは、まず両者の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論：一覧表でわかる「初任給」と「基本給」の最も重要な違い
「初任給」は入社1ヶ月目の給与総額で各種手当を含むケースが大半ですが、「基本給」は手当を含まない給与のベースであり、ボーナスや退職金計算の基礎となる重要な数字です。
まず、結論からお伝えしますね。
就職活動や転職活動で必ず目にするこの二つの言葉、実は全く別物なんです。
最も重要な違いを以下の表にまとめましたので、まずはここを押さえておきましょう。
| 項目 | 初任給 | 基本給 |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 新入社員が最初に受け取る給与の総支給額 | 給与全体の中で、手当を除いた基本的・固定的な部分 |
| 構成要素 | 基本給 ＋ 諸手当（住宅手当、通勤手当、固定残業代など） | 年齢給、職能給、勤続給などで構成される本体部分のみ |
| 変動 | 入社時の金額（基本的には固定だが残業代等は変動しうる） | 昇給や降給がない限り、毎月一定額 |
| 影響範囲 | 最初の月の手取り額や生活水準の目安 | 賞与（ボーナス）、退職金、残業代単価の計算基礎 |
多くの人が誤解しがちなのが、「初任給が高い＝基本給が高い」という思い込みですね。
実は、初任給が高く見えても、その内訳を見ると「基本給」が低く抑えられているケースが少なくありません。
これは、ボーナスや残業代の計算ベースを低くするための企業側の戦略であることもあるのです。
なぜ違う？漢字の成り立ち（語源）からイメージを掴む
「初任給」は初めて任務に就いた時の給与全体を指し、「基本給」は給与体系の土台（基本）となる核の部分を指します。
言葉の持つイメージを漢字から紐解くと、その役割の違いがより鮮明に見えてきますよ。
「初任給」の成り立ち：「初」めての「任」務に対する対価
「初任」とは、初めてその任務や職務に就くことを意味します。
つまり「初任給」とは、学校を卒業して就職し、初めて社会人として働き始めた最初の月に受け取る給与パッケージ全体を指す言葉です。
ここには、「これから頑張ってくれ」という期待や、生活を支えるための諸手当もひっくるめられた、一種の「スタートセット」のようなイメージがあります。
「基本給」の成り立ち：給与構造の「基」本となる「本」体
一方、「基本」とは、物事の土台や中心となる部分を指します。
「基本給」は、給与という建物における基礎工事や大黒柱のようなものです。
様々な手当（＝内装やオプション）が付け加わる前の、純粋な労働力の対価としての価値を表しています。
この土台がしっかりしていないと、その上に積み上がるボーナスや退職金も小さくなってしまうわけですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
求人票を見る際は「初任給」の内訳に注目し、給与交渉や将来設計を考える際は「基本給」の額を重視して使い分けます。
ビジネスシーンや就職活動の現場で、どのように使い分けるべきか具体例を見ていきましょう。
ここを間違えると、年収の見込みが大きく狂ってしまうこともあるので要注意ですよ。
求人・採用シーンでの使い分け
【OK例文：初任給】
- A社は今年、大卒の初任給を25万円に引き上げた。
- 求人票には初任給の内訳として、固定残業代が含まれていると記載されていた。
- 初任給をもらったら、両親にプレゼントを買う予定だ。
【OK例文：基本給】
- この会社は基本給が低めに設定されているため、ボーナスの額にはあまり期待できないかもしれない。
- 給与改定により、基本給がベースアップされた。
- 残業代は、基本給を時給換算した金額に割増率を掛けて計算される。
これはNG！間違えやすい使い方
意味が通じないことはありませんが、誤解を招く恐れがある表現です。
- 【NG】来月の初任給が楽しみだ。（入社2ヶ月目以降の発言として）
- 【OK】来月の給料が楽しみだ。
「初任給」はあくまで「最初の一回」に限った呼び方ですので、2ヶ月目以降は単に「給料」や「月給」と呼びます。
- 【NG】求人票の基本給が30万円と書いてあったから、手取りもそれくらいだろう。
- 【OK】求人票の初任給（総支給額）が30万円と書いてあったが、そこから税金などが引かれる。
求人票で大きく表示されている数字は通常「初任給（総支給額）」であり、「基本給」単体ではありません。
また、基本給＝手取りではない点も注意が必要ですね。
【応用編】似ている言葉「手取り」との違いは？
「手取り」は初任給や基本給から税金や社会保険料を差し引いて、実際に銀行口座に振り込まれる金額のことです。
「初任給」や「基本給」とセットで必ず意識しなければならないのが「手取り」です。
どんなに初任給が高くても、そこから控除される金額は意外と大きいものです。
一般的に、初任給（総支給額）の約75％〜80％が手取り額になると言われています。
例えば、初任給が20万円の場合、基本給が18万円で諸手当が2万円だとします。
この場合、手取り額はおよそ16万円前後になる計算です。
「基本給」は計算のベース、「初任給」は額面の総額、「手取り」は実際に使えるお金、と区別しておきましょう。
「初任給」と「基本給」の違いを専門的な視点から解説
統計調査や労働法制の観点からも、基本給は賃金構造の核として定義され、賞与や割増賃金の算定基礎となるため、キャリア形成において極めて重要な指標となります。
専門的な視点から見ても、この二つの違いは非常に重要です。
厚生労働省が行っている「賃金構造基本統計調査」などの公的な統計でも、賃金の内訳は細かく分類されています。
多くの日本企業では、基本給を「年齢給」「職能給」「成果給」などの要素で構成しています。
労働基準法において、残業代（割増賃金）の計算基礎となるのは、原則としてこの「基本給」に諸手当を加えたものですが、家族手当や通勤手当などは除外される場合があります。
しかし、最も影響が大きいのはやはり賞与（ボーナス）と退職金です。
多くの企業の就業規則では「賞与は基本給の◯ヶ月分とする」と規定されています。
つまり、同じ「初任給25万円」でも、「基本給20万円＋手当5万円」の人と、「基本給15万円＋手当10万円」の人では、もし賞与が「基本給の4ヶ月分」支給されるとした場合、年間の賞与額に20万円もの差がついてしまうのです。
詳しくは厚生労働省の統計・白書などで賃金の構造を確認してみると、より深い理解が得られるでしょう。
僕が「基本給」の低さに泣いたボーナス支給日の体験談
これは僕が新卒で入社した会社での、ほろ苦い思い出です。
就職活動中、僕は「初任給」の高さだけで会社を選んでしまいました。
求人票には「初任給24万円（一律手当含む）」とあり、当時の相場より少し高かったので「これはラッキーだ！」と飛びついたんです。
毎月の給料日には額面通りの金額が振り込まれ（もちろん税金などは引かれますが）、それなりに満足して生活していました。
ところが、入社して初めての冬のボーナス支給日、事態は一変しました。
同期と「基本給の2ヶ月分らしいから、48万円くらいかな？」なんて皮算用をして明細を開いた瞬間、目を疑いました。
そこに書かれていた支給額は、予想をはるかに下回る金額だったのです。
慌てて給与明細の内訳をよく見直してみると、なんと僕の給与は「基本給14万円 ＋ 職務手当10万円」という構成になっていました。
つまり、ボーナスの計算式「基本給 × 2ヶ月」は、14万円 × 2 ＝ 28万円だったのです。
「初任給」というパッケージの数字だけに目を奪われ、中身の「基本給」を確認していなかった自分の甘さを痛感しました。
この経験から、数字の「総額」だけでなく、その「内訳」こそが将来の年収を決める重要なカギであると学びました。
皆さんには、同じ失敗をしてほしくないですね。
「初任給」と「基本給」に関するよくある質問
求人票で基本給が書かれていない場合はどうすればいいですか？
「基本給」が明記されておらず「月給◯万円（一律手当含む）」としか書かれていない場合は要注意です。面接や内定後の条件提示の場で、必ず内訳を確認しましょう。「基本給はいくらで、どのような手当が含まれていますか？」と聞くことは失礼ではありません。将来の生活設計に関わる重要な権利です。
基本給が低いと退職金も少なくなりますか？
はい、その可能性が非常に高いです。多くの企業では退職金の計算式も「基本給（退職時の基本給）× 勤続年数別係数 × 功績倍率」のように設定されています。基本給が低く抑えられている給与体系の場合、長く勤めても退職金が想定より少なくなるリスクがあります。ただし、ポイント制退職金制度などを導入している企業ではこの限りではありません。
昇給するのは初任給ですか、基本給ですか？
一般的に昇給するのは「基本給」です。年に一度の定期昇給やベースアップによって基本給が上がれば、それに連動して残業代単価やボーナスも増えます。一方で、役職手当などの手当部分は昇進しない限り変わらないことが多いです。「初任給」はあくまで入社時のスタート金額なので、翌年以降は「給与」や「基本給」が上がっていくという表現になります。
「初任給」と「基本給」の違いのまとめ
「初任給」と「基本給」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 初任給はパッケージ：手当を含んだ、新入社員への最初の支給総額。
- 基本給は土台：手当を含まない、給与計算の核となる金額。
- 影響範囲の違い：基本給はボーナスや退職金の計算ベースになるため重要。
- 確認の徹底：求人票では総額だけでなく、基本給の金額を必ずチェックする。
言葉の背景にある仕組みを理解すると、ただの数字の羅列だった給与明細が、自分のキャリアや生活を守るための重要なデータに見えてきませんか。
これからは求人票や給与明細を見るときに、ぜひ「内訳」に注目してみてください。
お金に関する言葉の知識は、あなた自身の生活を守る武器になります。
さらに詳しいビジネス用語の違いについては、ビジネス用語の違いまとめもぜひ参考にしてくださいね。